スタジオジブリ “耳をすませば”の続編 “耳をすまして” 第四幕 バロンとルイーゼ

○聖司の実家

仏壇に向かって線香をあげるカトリーナのおば。

カトリーナのおば「私はもうずいぶんと年をとってしまいまいました……」

カトリーナのおばは聖司に言う。

カトリーナのおば「あなたのバイオリン、コンテストに落選したんですってね」

聖司「はい」

カトリーナのおば「あなたのバイオリンつかってあげたもいいわよ」

聖司「……」

カトリーナのおば「その代わり一つだけ頼み事を聞いてほしいの……」

聖司「……」

カトリーナのおば「カトリーナもいい年よ、そろそろと思ってるの、私ももう長くはないでしょう、その前にかわいい孫のドレス姿をみたいわ……」

聖司はすぐにこの状況を理解した。

カトリーナのおば「私は先に帰っているは、身辺整理をしてからイタリアに帰ってきてください」

聖司は思った、カトリーナのおばもおじいちゃんも、きっとバロンと貴婦人の人形と同じように互いの気持ちを思っていたに違いない。けして言葉には出さなかったけど、きっと……。

 

西とカトリーナのおばが叶わなわなかった恋を、孫の代で叶わせてほしいという交換条件。

 

○聖跡出版女子トイレ

雫「うぇーうぇー」

雫は便器に向かって悲痛な声を上げていた。

雫「気持ち悪い、なんでだろう? 何か変なものでも食べたかな?」

***

その夜裕子に聞いてみて、妊娠検査薬を薬局で買い、試してみると検査薬に赤色の線が入った。

雫「私、聖司の子を……」

 

次の日、イタリアに帰る前の聖司と会うことになった。

 

○元地球屋 

高台のてっぺんそこに地球屋があった。

しかし、西の容体が悪化するにつれ、地球屋は閉館。

そして、西が亡くなるとともに地球屋は売りに出された。

雫が元地球屋の前に到着すると、中からは綺麗なバイオリンの音色が聞こえてきた。

中に入ると薄暗い部屋の中に聖司がすでにいた。

雫「懐かしいね」

聖司「ああ、俺の青春いや俺の人生のほとんどはここでの思い出だ……」

雫「いい眺めだね」

聖司「……俺、またすぐにイタリアに行かなくちゃならないんだ」

雫「そう」

聖司「で、話ってなんだよ?」

雫「実は……」

雫はおなかをさする。

雫「できたみたい」

聖司「できたって新しい新作か?」

雫「ちがーうー」

聖司「まさかお前」

雫「赤ちゃん……」

聖司「赤ちゃんて、俺の赤ちゃんか?」

雫「あなた以外にいるわけないでしょ」

聖司は苦笑いを浮かべた。

雫「名前何にする? バロン? 女の子だったらルイーゼ?」

聖司「病院行ったのか?」

雫「ううん、妊娠検査薬で調べた」

聖司「そうか……まいったなー」

雫「うれしくないの?」

聖司「いや、ほら俺たちまだお互い半人前どうしだし、生活が安定してないし、まだ俺親父から仕送りもらってるし……」

雫「大丈夫だよ、私もすぐに働くし」

聖司「まだ俺コンテストとかいろいろ挑戦したい」

雫「それってつまり?」

聖司「……」

雫「おろせってこと?」

聖司「……それに、ほらまだちゃんと妊娠したかどうか、病院に行って検査しないとわからないだろ? だから一度病院行こう、俺の親父の病院産婦人科もやってるから、な?」

雫「あんたってさいてー!」

 

そんな時、薄暗い部屋の明かりに電気がともった。

眩しさで半開きの目で、入り口の方を見ると、そこには、山崎と何人かの男たちと杉村がいた。

 

杉村は売りに出されているこの家を買っていたのだ、別荘として、自分が地元に戻った時に休める場所が欲しかったのだ。

しかし杉村自身は、この家がかつて聖司のおじいさんの家、地球屋だということは全く知らなかった。

そしてこの日、杉村と山崎と昔懐かしい野球部の連中は、元地球屋で杉村が成人式にあまり出られなかったからということで、パーティーを開きに来たのであった。

山崎「あれ天沢?」

杉村「月島!?」

雫はみんなの前で、聖司の頬にビンタをすると、一目散に走りだした。

杉村はいきなり出くわした異常事態に体が反応し、雫を追いかけた。

山崎「はあ~、こりゃ修羅場だね」

山崎は聖司を見た。

聖司「別にお前らには関係ないだろ?」

山崎「いや関係あるね、……ここは杉村の家だ」

聖司「……」

山崎「よってお前は住居不法侵入だ」

聖司「……」

山崎「とっとと出ていけ!」

聖司は部屋を出て行った。

 

外では、杉村が雫の腕をつかんだ。

あの時あの神社での告白のように。

杉村「なあどうしたんだよ月島?」

雫の目には涙が浮かんでいた。

杉村「答えてくれよ、俺たち幼馴染だろ? な?」

雫「私」

雫はお腹に手を当てた。

杉村「まさかお前」

雫は杉村の手を振りほどいて、コンクリートロードを走り去っていった。

杉村「月島……」

そこに遅れて聖司がきた。

聖司は何も言わず帰ろうとする。

杉村「おい、待てよ!」

聖司は立ち止まる。

杉村「お前アイツに何言いやがった?」

聖司「別になんにも」

杉村「じゃなきゃあの天真爛漫な、月島があんな顔するわけがない」

聖司「関係ないだろお前には」

杉村「関係大有りだ、俺はあいつとは幼馴染だ、それに俺の初恋の相手だ」

聖司黙ってその場から立ち去ろうとする。

杉村「おい待てよ!」

杉村は聖司の腕をつかんだ。

杉村の握る力は力強く、とてもバイオリンづくりの聖司の力では振りほどくことはできなかった。

聖司「お前には関係ないだろ!」

聖司はそう叫びながら、振りかえると持っていたバイオリンで杉村を殴った。

バイオリンは杉村の右肩に命中し、へし折れ、地面に落下した。

杉村は手を放した。

杉村「いてー!」

聖司は杉村を睨んでいる。

杉村「お前! バイオリンはお前の夢だろ……それをこんな扱いしやがって、自分の大事なもの一つお前は大切にできねーのかよ、見損なったぜ天沢!」

物音を聞きつけた山崎が中から出てきた。

山崎「テメー天沢、杉村に何しやがった!」

山崎は今にも聖司を殴る勢いだった。

杉村「やめろ山崎!」

山崎は止まった。

山崎「でもよ」

杉村「いいから行かせろ」

聖司はその場から立ち去った。

山崎「とりあえず氷、待ってろすぐに病院連れてくから」

中から、他の連中も出てくる。

野球部の仲間「病院ここから一番近いのは天沢医院」

山崎「ふざけんな! そんな胸糞悪い病院なんか行けるか!」

杉村「大丈夫だよ」

山崎「馬鹿野郎! ピッチャーにとって肩は命よりも大切なもんだろうが、それを守るのはキャッチャーのつとめだ」

杉村「すまねー山崎……」